明けましておめでとうございます。
未病医学研究センターでは今年から、皆さまが少しでも健康に、且つポジティブに生活できますよう、最新の医学に関連する情報を発信していくことになりました。よろしくお願いいたします。
記念すべき第一回は、今も猛威を振るっています新型コロナウイルス感染者に関してです。日本でも、昨年の後半から感染者数は増加していますが、世界に目を向ければ日本の新規感染者数は他国の数十分の一の程度に留まります。なぜ、日本では感染者数が少ないのでしょう?
なにか特別な理由(ファクターX)が存在するのでしょうか?
最新の研究で、ファクターXではないか? と考えられている候補の一部について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
① 肥満
肥満は美容上の問題だけでなく、様々な健康障害、寿命短縮と関係することは、皆さんもすでに御存知なのではないでしょうか? 肥満は各種生活習慣病や、狭心症、脳卒中の発症、各種癌の発症とも関係していると言われています。
肥満と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関係について
肥満症は新型コロナウイルス感染症にとっても大きなリスクを伴います。
米国のノースカロライナ大学の研究グループによる研究をご紹介します。内容は、2020年1月から6月に実施された75件の研究データを検証したメタ解析です。対象となった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者は合わせて約40万人と多く、信頼性の高い研究となっています。実際BMIが30以上の肥満の人は、そうでない人に比べ、COVID-19の罹患リスクが46%高いことが判明しました。また入院が必要となるリスクは113%、集中治療室で治療を受けるリスクは74%、ウイルスによる死亡リスクは48%、それぞれ上昇したことが分かりました。
肥満がファクターXになりうるのか?
WHOによりますと、新型コロナウイルス感染症数が多いアメリカの肥満率(BMI30以上)は37.3%、イギリスは29.5%、アルゼンチンは28.5%、ロシアは25.7%である一方、感染者数が少ない日本は4.4%しか認められていません。他の感染者数が少ない国においてもシンガポールの肥満率は6.6%、韓国は4.9%ととても低い数字が確認できます。日本における肥満率の低いことが、新型コロナウイルス感染症数が少ない理由の1つという可能性はあります。
② 降圧薬
まず、知っておきたいこと~「ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の服用は、新型コロナウイルス感染症罹患後の重症化要因にはならない」~
新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年の初期に、一部のニュースやSNSにて降圧薬の一種であるACR阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を内服していると新型コロナウイルス感染後に重症化しやすいのではないか、との報道がありました。しかし、まもなく米国心臓協会(AHA)、米国心不全学会(HFSA)、米国心臓病学会(ACC)の3学会は3月17日に、「ACE阻害薬、ARBの服用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の重症化要因にはならない」とする共同声明を発出しています。ACE阻害薬またはARBは、高血圧、慢性腎臓病や心不全の患者に使用される降圧薬です。これらの疾患自体が新型コロナウイルス感染症の増悪因子であるために、疾患を有する患者さんは自己判断で使用を中止すると疾患自体のコントロールが悪化する可能性があるため、引き続きこれらの薬剤を使用する必要があります。
何故、これらの降圧薬の使用が新型コロナウイルス感染症罹患後の重症化因子と考えられたのか?
新型コロナウイルスは、細胞の表面に存在するACE2受容体と呼ばれる受容体タンパク質を介して体内に侵入することが分かっています。 動物実験においてはACE阻害薬やARBはACE2の発現を上昇させることが示されており、このことがこれらの降圧薬の使用により新型コロナウイルス感染を助長する、または感染後に重症化がし易くなるのではないかとの懸念を持たれたのです。しかし、ACE阻害薬やARBの使用とACE2の発現について、ヒトではその関係性はよく分かっていません(一部の研究では、ACE阻害薬やARBの使用はACE2発現の亢進との関係性がないことが示されている)。
ACE阻害薬・ARBがファクターXになりうるのか?
ACE阻害薬・ARBは日本だけではなく、世界各国で使用されている一般的な降圧薬ですので、ACE阻害薬・ARBの使用がファクターXになりうる可能性は低いと考えられます。
しかし、ACE2の発現量に関しては、これがファクターXとなっている可能性はあります。まだ研究は少ないですが、ACE2の発現量は人種、喫煙や運動などの生活習慣に影響される可能性があり、一部の研究によると、欧米人と日本人で、ACE遺伝子多型に人種差があることも分かっています。そして、このことがCOVID-19の致命率の差を説明できるのではないか、との報告もあるのです。
皆さまに伝えたいこと
これらのファクターXが日本での感染者数が少ないことに寄与している可能性はありますが、決定打には至っていないというのが現状です。
結局、感染症に対抗するには1人1人が免疫力を高めることが欠かせません。
最後に日常生活上で1人1人が感染症に負けない「免疫力を高める3つの生活習慣」をご紹介いたします。
- 1日30分の日光浴
- 適切な睡眠時間
- よく笑う
これらの習慣は我々の免疫の司令塔であるNK細胞や白血球の活性などを上げることが分かっています。
是非、これらの生活習慣を意識して感染症に負けない1年を過ごしてください。
Obes Rev. 2020 Nov;21(11):e13128.
Lancet Respir Med. 2020 Jun;8(6):e50-e51.