東京経済ONLINEに方一先生のインタビュー記事が公開されました
医師に聞く「肝臓から脂肪を減らす」朝食の選び方 コンビニで売っている商品でも対策できる | 健康 | 東洋経済オンライン
肥満やメタボリックシンドロームの増加に伴い、脂肪肝の人が増えています。日本では「代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)」の有病率(成人)が9〜30%といわれ、患者数は1000万人以上とも。放置すると肝硬変、肝臓がんの発症リスクが高まり、非常に危険です。予防・改善に取り組む必要があり、その1つが「朝食」だといいます。本稿では診療に取り組む医師、天野方一氏に肝臓の脂肪を減らすメニュー選びについて聞きました。
脂肪肝にダイレクトに効く薬はない
脂肪肝とは肝細胞の30%以上に中性脂肪がたまった状態のことを指します。40〜50代に多く、当院でもこの年代の患者さんが大半を占めます。また高齢者では食が細くあまり運動もしないことから、筋肉が少なく脂肪が多い状態の方もおり、見た目はスリムでも脂肪肝というケースが見受けられます。
放置すると肝硬変や肝臓がんに進展するおそれがあり、予防・改善に努める必要があります。ただし厄介なのは、脂肪肝に自覚症状はなく、健康診断などで指摘されたとしても特に症状が見られないので、改善に取り組む方は多くありません。
保険診療の中では中性脂肪を下げる薬はありますが、脂肪肝にダイレクトに効く薬はなく、医師からも飲み過ぎや食べ過ぎに対する注意、ダイエットに関するアドバイスを受けるくらいなので、これも放置に拍車をかけていると思います。
私は臨床以外に複数の企業で産業医としても勤めており従業員の健康診断の結果を確認しますが、従業員は肝機能が少し悪いくらいだと気にしないのが実態です。B判定、C判定なので次回まで様子を見ようということが10年くらい続き、肝炎などになってようやく重い腰を上げるケースが目立つのです。
「経過観察だから問題ない」と捉える方もいますが、脂肪肝であるだけで動脈硬化が進み心筋梗塞や脳梗塞のリスクは高まりますから、エイジングケアや予防医療の観点からもそのままにしてよいことは1つもありません。
脂肪肝を予防・改善するには運動や食事などの生活習慣を見直すことが必要です。メタボリックシンドロームと診断された、あるいは体重やウエスト周囲径が増えたなら体内の脂肪を燃焼させるためウォーキングやジョギング、水泳といった有酸素運動を定期的に行いましょう。筋肉トレーニングなどで筋肉量が増加すると基礎代謝も高まり、さらに効果的です。
食事に関しては、糖質と脂質を控えるのが原理原則です。糖質は肝臓で中性脂肪に変えられるため、ごはんやパン、麺類などの量を控えるだけでも脂肪肝の改善が期待できます。また、ジュースやアイスクリーム、お菓子などに含まれるショ糖は、米などに含まれる糖質よりも中性脂肪が肝臓にたまりやすく、取り過ぎに注意しないといけません。
脂質も同様で、取り過ぎると中性脂肪が増えて脂肪肝につながります。紅花油やコーン油などリノール酸を多く含む油、トランス脂肪酸を含むマーガリンやショートニングを使ったお菓子や菓子パンはこれに該当します。
ただし、食事から取る必要がある必須脂肪酸が欠乏するので、極端な制限はおすすめできません。
不飽和脂肪酸を摂取する
ポイントは、コレステロール値の上昇につながり循環器疾患の発症リスクが高まるとされる飽和脂肪酸はなるべく避け、摂取すると脂肪肝を改善させるデータのある不飽和脂肪酸を摂取することです。具体的には以下のような食材となります。
●飽和脂肪酸が多い食材
肉の脂身、ラード、バター、生クリーム、乳脂肪、加工食品など
●不飽和脂肪酸が多い食材
サラダ油、魚油などの液体の油、魚など
脂肪はアルコールからも作られるので、飲酒も控えましょう。1日のアルコール量の目安はビールなら中瓶1本(約500ml)、日本酒は1合(約180ml)、チューハイはレギュラー缶1本(350ml)とされています。日本酒換算で1日5合を1週間飲み続けるとアルコール性脂肪肝になる可能性があり、そうなると血液検査の数値が正常化するまで禁酒が原則です。
反対に摂取の優先順位を上げてほしいのは、食物繊維を多く含む野菜や海藻類、キノコ類です。食物繊維が多い食べ物は満腹感を得やすく、カロリーの過剰摂取を予防します。
筋肉など身体を作る栄養素であるたんぱく質の摂取も重要で、動物性由来ではなく植物性由来のもの、豆腐や納豆、ブロッコリーなどを取るのがおすすめです。
脂肪肝を予防・改善するための食事はこうした原理原則に沿ったものとなります。参考になるのは、下図のようなメニューです。

肝臓から脂肪を減らす食事のカギの1つは「朝食」です。例えば満腹感を得やすいたんぱく質は朝食時に十分取ることで、昼食や夕食で過食を防ぎ、1日のトータル摂取カロリーを抑えることができます。極端になりますが、納豆を2パック、卵を2つ食べるなど、たんぱく質を多めに取るような朝食であってもかまいません。
原理原則を知っていれば、コンビニで買う商品でも脂肪肝対策ができます。ゆで卵や豆腐バーでたんぱく質をまかない、これにおにぎり1個を加えると十分です。今はたんぱく質の量に着目した食品もたくさんありますが、動物由来なのか植物由来なのかわからないものもあります。なるべくなら植物由来の商品を選んでください。
食べ過ぎには要注意
注意点としては、食べ過ぎないこと。診療ガイドラインによると、脂肪肝の方が体重を5%減らすと肝疾患により低下しがちな生活の質(QOL)の改善が期待できるといわれています。さらに体重を7%以上減少させると、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の進行も軽減され、10%以上で肝臓の線維化の改善も期待されます。
体重は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると増え、中性脂肪も蓄えられます。目安である「標準体重(身長(m)×身長(m)×22)×25kcal」を参考に、摂取エネルギーを見直しましょう。
なお、たんぱく質の摂取量は、体重1kg当たり1〜1.2gが目安です。50kgら50〜60gとなります。これより過度に増えると腎機能障害につながるおそれがあります。
脂肪肝の予防・改善には食事の見直しが効果的で、なかでも朝食が担う役割は大きいといえます。ただし、自己判断で進めるのではなく、医師や管理栄養士の指導を仰ぐことも大切です。定期的に診断を受け、自身の状況を把握することも忘れないでください。