未病について

「未病を治す」は長年の、そして永遠のテーマ

「聖人は己病を治さず未病を治す」

これは、2000年以上前に記された中国最古の医学書『黄帝内経』の中の言葉です。発病前、つまり未病段階での治療がいかに大切かということが、漢方の世界では古代から語り継がれてきました。

すでに日本でも、未病という言葉は定着したといえますから、この考え方に頷かれる方は多いでしょうが、私がこの言葉を新聞や雑誌で発信し始めた約30年前、未病に対する理解度は非常に低く、「みびょう」ではなく、「まつびょう」と読む人も少なくない時代でした。

さて、あなたは「未病を治す」ということに対して、どんなイメージを抱かれますか?

ほとんどの方が「病気を発症前の段階で食い止める」と答えられるのではないでしょうか。もちろん正解ですが、さらに深い意味があるということを理解していただきたいと思います。

これまでの20年間、当センターを拠点として、なぜ私が未病を治すことに専念し続けてきたかというと、その深い意味を知ってほしいからです、そこにこそ人間として幸せに生きる多くのヒントがあるのです。

たとえば、糖尿病や心臓病、がんなどの生活習慣病は、一度発症すると完治は困難であり、また、発病によって死の恐怖に苛まれることもあります。けれども、未病に気づき、節制を心がけるだけで、不安や恐怖とは無縁の快適な生活を手に入れることができるのです。

また、未病を治すことは、アンチエイジングにもつながります。若々しく見えるファッションを心がけることも大切ですが、それには限界があります。しかし、漢方の世界では脳や血管、骨の若さにもこだわりますから、身体からにじみ出る若々しさが、その人をいつまでも輝かせることになります。

さらにいえば、「未病を治す」という考え方は、身体を超えて、さまざまなジャンルに役立ちます。親子の関係、夫婦の関係、会社経営から政治や経済にいたるまで、何事も大きく乱れる前、つまり「未病」の段階で手を打つことが重要なのです。

そのためには、自分の身体はもちろん、まわりの人々や仕事、そして自然に感謝して愛情を注ぐ――この生き方が基本だろうと思います。

未病を治すことは人々を幸せへと導き、愛情溢れる世界を築くことだと信じ、私のライフワークとして、これからもこの素晴らしいテーマとともに歩んでいきたいと考えています。